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第二章 天女、潜入 + 9 +

last update Terakhir Diperbarui: 2025-05-24 21:51:33

「北の大地へ、カイムの待つ土地へ連れて行け、ってね」

 篁家に仕える御者に湾が呼ばれて竜胆の印が記された馬車から降りて、桜桃の腕をとる。窓のなかった箱馬車にいたから、草地に足を乗せたときに仰ぎ見た世界の明るさに、桜桃は眼を瞠る。

 真っ青な空に黄金色の太陽。雪の残る峻険な峰々。そして桜桃たちの降り立った場所からすこし先に鎮座している場違いな異国風建物。古代の王朝がそこで政まつりごとを行っていたかのような趣の、白亜の神殿。

 桜桃は立ち尽くし、口をぱくぱくさせる。

「古都律華の御三家のひとつである鬼造(きづくり)家が創設した女学校……冠理(かんむり)女学校だ」

「これが……学校?」

「そ。開校して間もないけれど、全寮制の女学校ってことで一部の華族の間では重宝されている」

「なんで?」

「正妻に疎まれたりしているわけありの娘を厄介払いするのに最適なんだと。その上花嫁修業もできて一石二鳥。えらい商売考えたものだよ」

「なるほど……」

 たしかに、桜桃が隠れるにはもってこいの場所かもしれない。帝都から離れた遠い北の大地にある開校して間もない全寮制の女学校。

「入学資格は十五歳から十八歳までの女子。身分についての制約はなし。つまり、莫大な学費と生活費を払うことができれば年頃の女の子なら誰でも入れるという仕組みさ。ま、生徒の大半がわけありの華族の娘だろうけどな」

 その、わけありの華族の娘のひとりである桜桃もまた、この女学校に身を隠すべく偽名で入るというわけだ。空我の名は出さない方がいいと湾に言われたこともあり、桜桃は母、セツの部族、カシケキクが使っていた「ミカミ」を名乗ることになっている。神を身に宿らせる、身神がその由来だという。

 前日、湾が渡してくれた書類に「三上桜(みかみさくら)」という見慣れない署名を書かされた。安直だが、桜桃、という名から桜の字を残すことにしたのだ。ゆすらとさくらなら違和感もないだろ? と湾が提案し、苔桃よりマシですと桜桃も笑って受け入れたのである。

 ……なんてことを思い出している横で、湾は建物についての説明をしている。

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